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空、星、海の夜


「いざ、ゆかん!」



男子に二言は無い



「目の前には暗闇が広がる森林。まるで伯爵家を追放されたボクの立場のようだ!
 闇雲に進めば怪我をするかもしれない、だけど退くことは許されない!」



自由とはつまりそういう事だ。
深夜の森を手探りで進むようなもの。



「しかし空を見上げれば星々の大海。これまたボクの将来のようだ!
 それは確かに燦然と輝いている。そう、ボクの書いた脚本達のように!」



自由とはつまりそういう事だ。
自らを輝かせて空を飛ぶようなもの。



「しかし後悔が無いわけではない。これは今日のボクに言ってやりたい!
 伯爵家嫡子でいる間に、なぜそれをやっておかなかったのか!」



自由とはつまりそういう事だ。
自分の手の届く範囲でしか泳げないという事。



「・・・父上の後ろ側にあったテーブルのジャンバラヤ、食べたかったなぁ・・」



お腹、空いたなぁ。
勢いで家を飛び出しては来たものの・・・
セスに頼んで、お弁当に詰めてもらえばよかった。




「ま、出てきちゃったものは仕方がない」



とりあえず、どうしようかな?
お腹も空いたし、ユージィンの家にでも行こうかな。
でもアレコレ聞かれるのも面倒くさいしなぁ・・・
でもお腹は空いてるしなぁ・・・



「・・・お。コレもいいな。
 ジャンバラヤを鎧のように着こんだ主人公が、お腹を空かせた子供たちに
 自分のジャンバラヤを分け与えていく!」



そう、その米粒が減っていく毎に彼の力は弱っていくというのに・・・
というかジャンバラヤが辛すぎてそもそも子供たちは食べられない!
激辛か!?それとも空腹か!?究極の二択が子供たちの身に迫る・・・!



「題して・・・『それいけ!ジャンバンマン!!』
 written by・・・ラファエル・エドモンド・ノースブルック・・・!
 ・・・・あ」



そっか。



そうなんだな。



「・・・よいしょっと」



手ごろな倒木を見つけて腰掛ける。
空を見上げれば満天の星。
けれど月は心なしか霞んで見える。




「もう・・・ノースブルックって名乗っちゃ・・・マズイんだよな」



頬を撫でるように、風が一吹き。
そのやわらかな手に反応するように辺りの木々はざわめいた。



「・・・まいったなぁ」



ポケットから羽根ペンを取り出す。
その羽根先を月にかざしてみた。
今のボクにはこれだけしかないんだという事しかわからなかった。



「・・・じゃあ」



困った。
『ノースブルック』の名を棄てるというのはこういう事なのだ。
『ラファエル・エドモンド・ノースブルック』と名乗れない。
それはつまり───



「どうやって、父上にボクの作品を知ってもらったらいいんだ?」



んん〜、困ったぞ。
幸いボクの作品の幾つかは実家にある。



それがあればマライアは笑うだろう!
ロレッタも笑うだろう!
母上は笑ってくれた!



「・・・でもあの様子じゃあ、父上は見てくれないよなぁ〜・・・」



これからもボクは数々の名作を世に送りすだろう!
そしてその名作たちは後世に語り継がれ、悠久に人々に愛され続けるに
違いない!
それは脚本家としては本懐というものなのだけれど・・・



「・・・けれど、父上の笑顔を見るには、後世じゃあダメなんだよなぁ・・・」



参ったなぁ。
生きている間にしか存在できない名作、というのがあるとは思わなかった。



「んん〜・・・」



空に向かって伸びてみる。
身体は軽くなったけど、星には手が届かなかった。



「あの星達ぐらい、どこにいても見えるものだったらいいんだけどなぁ・・・」



中でも一際輝く星が幾つかある。
あれぐらいだったらいい。
あれぐらいわかりやすければいい。



「船乗り達は星を見れば、どこにいても自分の場所がわかるそうだけど・・・
 彼らの様に分かる人にだけ分かる様な知識があれば・・・あ」



反動をつけて跳び上がる。
着地は見事に成功。
暗闇がのしかかる森の中で、一人気を吐いた。



「よし!」



暗闇に向かって歩を進める。
森を抜けるまであとどれくらいだろうか?
紙を手に入れるまであとどれくらいだろうか?



「書くぞ書くぞー!!」



大気を切り裂くようにペンを振り回す。
言葉が脳から溢れそうなのに、書けない今がもどかしい。



「・・・それにしても」



想像すると思わず吹き出してしまう。
それは何度となく、子供のころから何度となく思った事なんだけれど。



「あの四六時中難しい顔の父上には似合わないよなぁ〜」



同じ夢を追いかけた息子の自由に───
同じ夢を追いかけられた父親の不運に───


新しい門出に新作発表といこう!
タイトルは───



「『それいけ!ジャンバンマン!!』
 written by・・・ラファエル・エドモンド・ブラントローズ!」
 
19:00 長男 ラファエル comments(0)
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